魔法のカクテル

児童文学

 この物語は大晦日の午後5時から新年を告げる鐘がなるまでのお話です。中心に登場するのは悪い魔術師と魔女、そして、テノール歌手と自分で言っているけど、あまりいい声とは言えない牡猫(おすねこ)と、年老いて羽がボロボロになったカラスです。
 イルヴィツァーという魔術師に飼われていたイタリアのオペラ歌手のような名前の牡猫マウリツィオですが、彼の本当の姿は動物最高評議会から潜入しているスパイです。しかし、牡猫は魔術師に親切にされて、すっかりイルヴィツァーのことをいい人だと思い込んでいます。
 外はひゅうひゅうびゅうびゅう凍える雪の夜です。イルヴィツァーは魔法枢密顧問官(まほうすうみつこもんかん)から約束の悪事のノルマについて催促をされています。期限は今年中。顧問官が帰った後、みすぼらしい老カラス、ヤーコプがイルヴィツァーの家にやってきます。実はこのカラス、イルヴィツァーの伯母(おば)の魔女ティラニアに飼われていて、実は彼も牡猫と同じ立場のスパイでした。すぐに伯母のティラニアも、煙突から落っこちてやって来ます。彼女の目的は、二人が別々に持っているこの家系に伝わるあるカクテルの作り方を書いた羊皮紙(ようひし)です。それを合わせて、カクテルを作ることでした。そして、お互いに一緒に作るのは嫌でしたが、仕方なく二人で協力してカクテルを作ることになりました。そのカクテルを飲んで、新年の鐘が鳴るまでに願い事を言うと、その願いの逆にかなえられるということです。世の中に悪いことを起こさせようとした魔術師たち、そして、それを聞いて、なんとかして、いいことを世の中にもたらそうとした牡猫と老カラス。牡猫と老カラスが大活躍するファンタジーです。
 ミヒャエル・エンデはこの長編ファンタジーを1989年に出版します。たった一日のそれも夜の7時間に起こった物語です。細かく区切った章は、一刻を争う緊迫感をもたらします。章ごとに時間の経過を著す時計の挿絵があって、いっそう物語の時間経過に、早く早くなんとかして、という気持ちとともにあっという間に読み進んでいきます。時間というものを巧みにとらえたエンデらしい作品であり、物語で唱える、本当は思っていることとは裏腹の魔術師たちの願い事の詩は、エンデの現代社会への矛盾に対する叫びに聞こえてきます。

『魔法のカクテル』ミヒャエル・エンデ作 川西芙沙訳 岩波書店 2019年
ISBN 798-4-00-114249-5

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